30sec Memo
👉ツール系SaaSは、それが使われるプラットフォームのマーケットプレイスに掲載することが、効率的な「集客の自動化」に繋がる。
👉「良すぎる」無料プランは、時に収益化の足かせになる。プロダクトの価値を信じ、対価を払う意思のあるユーザーに絞る勇気も必要。
what's service
Sync2Sheetsは、NotionのデータベースとGoogle Sheets(スプレッドシート)間で、リアルタイムに近い双方向のデータ同期を実現するGoogle Workspaceアドオンである。
このサービスはGoogle Sheetsのサイドバー内で動作し、ユーザーが使い慣れたスプレッドシートの環境から直接Notionのデータを操作・活用することを可能にする。単なるデータ転送に留まらず、Notionのリッチテキスト、セレクトプロパティ、リレーションといった独自のデータ構造を、Google Sheetsの書式、ドロップダウンリスト、条件付き書式として忠実に再現する「高忠実度」の同期が最大の特徴。これにより、ユーザーはNotionに蓄積したデータを、Google Sheetsが持つ高度な計算、データ分析、グラフ作成といった機能を最大限に活用して分析できるようになる。
Notionは情報整理やプロジェクト管理に優れる一方、高度なデータ分析や複雑な計算機能には限界がある。そのため、多くのユーザーはNotionのデータを分析するために、手動でCSVファイルとしてエクスポートし、Google Sheetsにインポートするという、時間のかかる非効率でミスを誘発しやすい作業を強いられていた。
NotionとGoogle Sheets間のデータ同期プロセスを完全に自動化する、Google Workspaceアドオンを提供。これにより、手作業によるデータ移行の手間とミスをなくし、ユーザーはGoogle Sheetsの強力なデータ分析、可視化、計算機能を、Notionのデータに対してリアルタイムで活用できるようになった。
More Info
売上はどのくらい?
月間経常収益(MRR)135万円($9,000)、生涯収益約1,800万円($120,000)。利益率は約90%。
ターゲットユーザーは?
特定の業種や企業規模ではなく、「プロジェクト管理にNotionを、データ分析にGoogle Sheetsを日常的に使用している全てのユーザー」という、具体的な「行動ニッチ」に焦点を当てている。顧客には個人のフリーランサーから、Wix、L'Oréal、Canvaといったグローバル企業まで含まれている。
マネタイズ方法は?
SaaSサブスクリプションモデルを採用。利用規模に応じた3つの料金プラン(Starter: 月額$15, Advanced: 月額$23, Business: 月額$49、年払い割引あり)が設定されている。全てのプランには7日間の無料トライアル期間が設けられている。
当初は機能が充実した無料プランを提供していたが、多くのユーザーが無料で満足してしまい有料への移行が進まなかった。そのため、無料プランを完全に廃止し、無料トライアルのみを提供するモデルへ転換。
創業者について教えて
Sync2Sheetsは、アルゼンチンのブエノスアイレスを拠点とする一人起業家、Leandro Zubrezki(レアンドロ・スブレスキ)氏によって設立・運営されている。
大学で電子工学を学んでいたが、フィードバックサイクルの早いソフトウェア開発に魅力を感じて中退。独学でJavaScriptを習得後、約8年間フリーランスの開発者として活動した。
なんで成功したの?
成功の最も核心的な要因は、「検証済みのニッチな課題と、プラットフォームベースの流通チャネルの完璧な連携」である。
これは具体的に二つの要素からなる。
第一に、「課題の検証」。創業者はコードを一行も書く前に、Notionユーザーが集まるRedditのコミュニティ(/r/Notion)で、「sheets」や「CSV」といったキーワードで検索を実行した。そこで、データをGoogle Sheetsに移行したいというユーザーの無数の悩みや投稿を発見し、これが単なる思いつきではなく、現実的で切実な需要であることを客観的に証明した。
第二に、「効率的な流通」。その課題を解決するソリューションを、ユーザーが解決策を探しに来るまさにその場所、すなわち「Google Workspace Marketplace」に配置した。競合が少なくターゲットに刺さるプロダクトをマーケットにリリースすることで、Sync2Sheetsは広告費をほとんどかけることなく、購入意欲が極めて高いユーザーを継続的に獲得する強力なエンジンを手に入れた。
この「明確な需要の証明」と「顧客の通り道に製品を置く戦略」という二つの組み合わせが、一人でも持続可能で高収益なビジネスを築き上げることを可能にした最大の秘訣である。
Road map
Notionの公式APIリリースを機に、Google Sheetsとの同期というアイデアを着想。開発に着手する前に、Notionのsubredditで関連キーワードを検索し、ユーザーがデータのエクスポートに苦労している無数の投稿を発見。これにより、製品への切実な需要が存在することを確信した。
検証した需要に基づき、わずか2週間の開発期間で、中核機能(NotionからSheetsへのデータ同期)のみに絞ったMVP(Minimum Viable Product)を構築。完成後すぐにGoogle Workspace Marketplaceで公開した。
Marketplaceへの公開後、わずか10日間で最初の無料ユーザー50人を獲得。製品に対する市場からの強い引き(Pull)があることを示す、重要な初期検証となった。
有料プランを導入。そこから5ヶ月をかけて、最初の有料顧客50人を獲得した。無料ユーザーから有料顧客への転換には一定の時間と努力を要した。
MVP公開から約1年半後、Product HuntとHacker Newsで正式にローンチ。Product Huntでは日間10位に入り、多くの注目とSEOに有効な被リンクを獲得。ブランド認知度向上に貢献した。
寛大すぎた無料プランが有料へのアップグレードを妨げ、成長のボトルネックになっていると判断。ビジネスをスケールさせるため、無料プランを完全に廃止し、7日間の無料トライアルモデルへ移行するという大胆な決断を下した。
無料プラン廃止の決断が功を奏し、ビジネスの成長が劇的に加速。MRR(月間経常収益)はわずか数ヶ月で約5,000ドルから約8,000ドルへと急増した。
MRRは9,000ドル(約135万円)に達し、有料顧客数は450社以上、総ユーザー数は70,000人を超える規模に成長。創業者一人の力で高収益なビジネスを維持している。
Marketing
開発したアドオンをGoogle Workspace Marketplaceに掲載した。
「Notion」「Sheets sync」等のキーワードで解決策を探している、購入意欲が極めて高いユーザーからのオーガニックなトラフィックを継続的に獲得。最も重要かつ強力な顧客獲得チャネルとなった。
Redditの/r/NotionやFacebookグループに参加。製品を宣伝するのではなく、まずユーザーの質問に答えるなど価値提供を優先し、文脈の中で製品を紹介。製品が動作するGIF画像を投稿し、具体的な利用イメージを伝えた。
コミュニティ内での信頼を構築しながら、製品の認知度を高め、熱量の高い初期ユーザーの獲得に成功した。
「F5bot」というサービスを利用し、Reddit上で"sheets", "CSV"といったキーワードを含む投稿がされた際にメール通知が届く仕組みを構築。関連する会話にタイムリーに参加した。
コミュニティマーケティングを体系化・効率化し、継続的に見込み客との接点を創出することに成功した。
Marketplaceへの依存から脱却するため、NotionとGoogle Sheetsの連携に関するトピックでブログ記事を執筆し、SEOに注力した。
検索エンジン経由のトラフィックが増加し、Marketplaceと並ぶ主要なトラフィック源の一つに成長した。
Product HuntやHacker Newsで製品をローンチし、トップページに掲載された。
直接的な有料顧客の増加は限定的だったが、ブランドの認知度を大きく向上させ、メディア露出やSEOに有益な多数の被リンクを獲得することに成功した。
idea
アイデアの源泉は、創業者Leandro Zubrezki氏が持つ既存スキルと、市場の好機が交差した点にあった。
彼は別のプロジェクトで既にGoogle Sheets APIを扱っており、その知識を蓄積していた。そんな中、2021年5月にNotionが待望の公式APIをリリース。この二つの出来事が重なったことが着想のきっかけとなった。
しかし、彼が他の開発者と一線を画したのは、その後の行動である。コードを一行も書く前に、Notionユーザーが集まるRedditのコミュニティに赴き、「sheets」や「CSV」といったキーワードで過去の投稿を徹底的に検索した。その結果、Notionからデータをエクスポートするのに苦労しているユーザーによる無数の投稿を発見し、そこに明確で切実な需要が存在することを確信した上で、開発に着手した。
成功するアイデアを見つけるヒントは、自身のスキルセットと市場の変化が交差する点にある。新しいAPIのリリースや、人気ツールの機能アップデートなどは大きなチャンスとなり得る。特にAPIのリリースやLLMプロダクトのリリース時は「今まで解決できなかった課題」が個人でも解決できるようになる可能性がある。
最も重要なのは、思いつきや仮説で開発を始めないことである。ターゲットユーザーが日常的に集まるオンラインコミュニティ(Reddit、Facebookグループ、Xなど)を深く観察し、彼らがどのような言葉で「痛み」や「不便」を表現しているか、その生の声を探すことが極めて有効。人々が「お金を払ってでも解決したい」と思っている課題を見つけ、その需要を客観的な証拠で証明してから開発に着手することで、失敗のリスクを大幅に低減できる。
develop
まず、中心的な仮説(ユーザーはNotionとSheetsの自動同期を求めている)を検証するために、核となる機能だけに絞ったMVP(Minimum Viable Product)をわずか2週間で構築した。
その後、MVPを迅速に市場に投入し、実際のユーザーからのフィードバックを収集。最初のバージョンは単純なデータ転送機能のみだったが、ユーザーの要望に基づき、リッチテキストの書式保持やUI/UXの改善といった機能を反復的に追加していった。このユーザー中心の継続的な改善サイクルが、製品を洗練させ、ユーザーにとって不可欠なツールへと進化させた。
Tech Stack
フロントエンド / アドオンロジック: Google Apps Script
バックエンド / インフラストラクチャ: Google Cloud, Firebase
主要言語: TypeScript開発ツール: VS Code, Cursor (AI活用エディタ)
決済処理: Paddleトランザクションメール: SendGrid
プロダクト分析: Mixpanel
カスタマーサポート / チャット: Tidio