30sec Memo
what's service
Retention.comは、Eコマースサイトなどに設置したJavaScriptコードを通じて、メルマガ登録や購入をせずに離脱した「匿名訪問者」の身元を特定する「ID解決技術」を核としたSaaS。広大なパートナーネットワークのCookie情報を活用し、訪問者のハッシュ化されたメールアドレスを自社のデータベースと照合。特定できたユーザーの連絡先情報(氏名、メールアドレス等)をクライアントに提供することで、広告費に依存しないマーケティングリストの構築を支援する。
Eコマース事業者は、広告費の高騰による顧客獲得コスト(CAC)の増加、サイト訪問者の98%が購入せずに離脱し年間2兆7000億円もの機会損失を生む高いカート放棄率、そしてプライバシー保護強化によるリターゲティング広告の効果低下という深刻な課題に直面していた。
これまでアプローチ不可能だった「サイトを訪れた匿名の訪問者」を特定し、Eメールコンタクトとして提供。これにより、Eコマース事業者は広告費をかけずに見込み客リストを直接的に拡大し、失われた収益機会を回復させることが可能となった。
More Info
売上はどのくらい?
ARR(年間経常収益)33億円以上
ターゲットユーザーは?
主なターゲットはEコマース事業者とパブリッシャー。
具体的には、Shopifyを利用する中小企業(SMB)から、Dr. SquatchやWarby Parkerのような中堅・大手Eコマース企業、さらには出版社や小売業者まで、幅広い顧客層を対象としている。
マネタイズ方法は?
月額課金のサブスクリプションモデルが収益の主軸。
料金プランはサイトのトラフィック量や取得するコンタクト数に応じて変動する。各プランにはコンタクト数の上限があり、超過分は従量課金となるハイブリッドモデルを採用。最低プランは月額$500(約75,000円)から。強い製品価値への自信から、100%のROI返金保証も提供している。
創業者について教えて
創業者アダム・ロビンソン氏は、元リーマン・ブラザーズのウォール街トレーダーという経歴を持つ非技術者(ノンコーダー)。2008年の金融危機を機に起業家へ転身した。最初のEメールマーケティング会社「Robly」の経営で成長の壁にぶつかった失敗経験を持つ。
なんで成功したの?
成功の最大の要因は、創業者が「プロダクトマーケットフィット(PMF)こそが全て」という哲学を徹底したことにある。
最初の事業「Robly」では、競合の模倣に過ぎずPMFがなかったため、何をしても成長が停滞する苦しみを味わった。その失敗から、次の事業では顧客が熱狂した「匿名訪問者のID解決」という一点に機能を絞り込んだ。この強烈なPMFが存在したため、製品が自然と売れる状態が生まれ、最小限のマーケティング費用で爆発的な成長が可能となった。優れた戦術や手法以前に、顧客が喉から手が出るほど欲しがるプロダクトを創り上げたことこそが、他の全ての成功(低コストでの顧客獲得、高い利益率、リーンな組織)を生み出す根源となった。
Road map
創業者アダム・ロビンソン氏がEメールマーケティングツール「Robly」を経営。しかし、市場リーダーの単なる模倣であり、PMFが欠如していたため、ARR4.5億円で成長が停滞。3年間「壁に頭を打ちつけ続ける」ような苦しい時期を過ごした。
成長に悩む中、Roblyの機能の一つとして実験的に追加した「匿名訪問者のID解決機能」に、ユーザーが熱狂的に反応。他の機能は無視され、この機能で得たデータだけが活用されている事実に気づき、次の事業の核となる「ダイヤの原石」を発見した。
Roblyを数千万ドル規模で売却。その売却益を元手に、ID解決機能に特化した新会社「GetEmails」(後のRetention.com)の創業準備を開始した。
非技術者であるため、まず簡易ツールでモックアップを作成し、フリーランスに依頼して見た目だけのWebサイトを構築。この「ハリボテ」を使って見込み客に価値を提案し、お金を払う意思があるか徹底的に検証した。
市場の需要を確信した後、初めてバックエンド開発に着手し、わずか8週間で完了。2019年後半に「GetEmails」としてサービスを正式にローンチした。
ローンチ後、Roblyが数年かかったARR1.5億円を、わずか16週間で達成。PMFの有無がいかに事業の成長速度を左右するかを明確に証明した。
事業が単なる「メール取得」以上の価値を提供するようになったため、社名を「Retention.com」に変更。この際、ブランド価値の高いドメイン取得に1.2億円を投資した。
ARRは33億円を突破し、外部からの資金調達ゼロで成長を継続。ID解決技術をB2B領域に応用した姉妹会社「RB2B」をスピンオフさせるなど、事業ポートフォリオを拡大している。
Marketing
サービスローンチ直後、DigitalMarketer.comのオンラインコースで学んだVSLのフレームワークを忠実に実行した。自身の声をiPhoneで録音し、Upworkで見つけたクリエイターに15万円でアニメーション制作を依頼。
わずか75万円の広告費で、月間経常収益(MRR)150万円を獲得するという驚異的なコンバージョンを達成。強力なPMFとシンプルなオファーにより、低コストで初期の顧客獲得に成功した。
創業者のアダム・ロビンソン氏がLinkedInで積極的に情報発信。前事業での失敗や起業家としての苦闘、そこから得た教訓をオープンに共有するストーリーテリングを続けた。
透明性のある人間味あふれる発信がフォロワーの強い共感と信頼を獲得。広告費に依存しない持続可能なリード獲得エンジンとなり、質の高い見込み客の獲得に繋がった。
初期に獲得した中小企業顧客の解約率が20%と高かった経験から、より契約が安定し高単価が期待できる中堅〜大手Eコマース企業へとターゲットを戦略的にシフトした。
顧客生涯価値(LTV)が大幅に向上し、事業の安定性と収益性が高まった。製品の価値が実証されれば解約されにくい高LTVモデルを確立した。
idea
アイデアは、創業者のアダム・ロビンソン氏が経営していた最初の会社「Robly」の顧客フィードバックの中にあった。Roblyの多くの機能の中で、ユーザーは実験的に追加された「匿名サイト訪問者のID解決機能」だけに熱狂的に反応した。顧客が製品全体ではなく、たった一つの機能のためにお金を払い、そのデータを他のツールで活用しているという事実が、次の大きな事業の直接的なヒントとなった。
・既存事業やプロダクトの中で「顧客が本当に価値を感じている部分」を深く観察すること。ユーザーが開発者の意図しない使い方をしていたり、特定機能に異様に執着していたりする場合、そこに未発見の大きなビジネスチャンスが眠っている可能性がある。
・身近な成功事例から「自分にもできる」という自己効力感を得ること。創業者は、同じオフィスにいたJasper AIのチームが1年でユニコーン企業へ急成長する姿を間近で見た経験が、大きなリスクを取る上での心理的な支えになった。
develop
非技術者である創業者ならではの、徹底したリーンな開発アプローチを実践した。
・「構築する前に売る(Sell Before You Build)」:プログラミングを一切行わず、まずスクリーンキャプチャツールで製品のモックアップを作成。それをフリーランスのデザイナーに依頼してHTML化し、動かないが見た目だけのウェブサイトで見込み客に営業した。需要を確信してから初めて開発に着手することで、無駄な投資を徹底的に排除した。
・MVP(Minimum Viable Product)開発:市場の需要が証明された後、必要最小限の機能に絞って迅速に開発。GetEmailsのバックエンドはわずか8週間で完成させた。
・インテグレーション戦略:自社では「ID解決」というコア技術にリソースを集中。周辺機能はShopifyやKlaviyoなど80以上の主要な外部プラットフォームとの連携で補う戦略を取った。これにより、顧客は既存のワークフローを壊さずにサービスを導入でき、開発リソースを最も価値を生む部分に集中させることができた。